WOC2006デンマーク報告書

0. はじめに

昨年の日本での世界選手権から一年、いろいろとつまずきながらもデンマークでの世界選手権を目指してきた。今回の準備に関しては体力面での改善という明確な目標とモチベーションの維持・喚起という2つの柱があったと思う。モチベーションに関して、愛知での世界選手権が終わった後と、全日本選手権が終わった後に顕著に落ち込み、投げやりな気持ちになり非常に落ち込んだ。体力面の強化は全日本選手権までは順調だったが、4月以降、体調不良や腰の故障(ぎっくり腰)などがあり満足な状態ではなかった。代表として走っている自分を明確にイメージできないまま、なんとか準備を進めて行った。今後世界選手権を目指す人にとって、意味のある報告書になるかどうかはわからない。しかし、私自身にとってこの一年間は今までにもまして濃い一年間だったことだけははっきりしている。

1. 目標設定

2. トレーニングプラン

設定した目標から、ロング決勝を走りきるための体力づくりをメインに置き、以下のような計画を立てた。 全体的な流れは以下の通り
  1. 全日本選手権・セレクションレースまで一つの塊として捕らえ、最大限のパフォーマンスをする。(目標は優勝)
  2. 体力的な部分を維持しながらOLの技術部分をブラッシュアップさせ、負荷の高いトレーニングを加える。

3. 実際のトレーニング(2005年9月〜2006年6月)

図(トレーニング時間の推移)

  1. 8月中は今後についていろいろと悩みながら、リラックスしたトレーニングをした。9月に入り、自転車などを活用してトレーニング量を上げた。当初イタリアへのワールドカップ参戦を予定していたが、現時点で自分に必要なのはトレーニングであるという考えもあり、国内に留まってアドベンチャーレースなどをトレーニングとして活用しながらトレーニング量を増やした。しかし、国内でのレース期・中国でのパークワールドツアー(PWT)参加を経て、結果が伴わなかったことに対する焦りのようなものを感じた。
  2. 鍛錬期に入ってからは、気持ちを完全にリセットし、今までに考えられないくらいのトレーニング量を確保した。内容は、自転車を使ったりトレッキングをしたりと、負荷は低かったがその分いろいろと動いた。回復のための週をしっかりと設けられたことが、トレーニング量確保できた要因であったと思われる。
  3. 全日本主権前はトレーニング量を一度落とし、最大限のパフォーマンスをすることを念頭においた。しかし、世界選手権までの通過点という考え方もわずかに残っており、トレーニング量を落としきれなかった面もあるかもしれない。結果は準優勝であったが、もっと高いパフォーマンスを発揮できるはずであった。
  4. 選考レースを経て、本来ならばオリエンテーリングの量を増やしながら再び体を絞る時期であったが、度重なる体調不良と故障(ぎっくり腰)のためトレーニングできず。体を休めることは出来たと割り切った。
  5. セレクションレースは結局ロング1本にしか出場することが出来ず、得意のミドルには出場できなかった。今できるパフォーマンスをすることは出来たのでその点は評価できる。
  6. オーリンゲンなどを通してオリエンテーリング漬けの毎日を過ごした。オリエンテーリングはとても負荷の高いトレーニングで不整地を走ることが多いのでトレーニングとしては最適だと思う。しかし、長時間出来ないことが一番のデメリットである。今後オリエンテーリングをトレーニングのメインに置きつつ、他の補助的なトレーニングで量を稼ぐという方法がいいのかもしれない。

図 オリエンテーリングのトレーニング量(アップ・ダウンの時間も含む)

4. 直前の準備(2006年7月)

4月に体調を崩し、5月に故障(ぎっくり腰)したため、トレーニングが計画的に進行していないのは明らかだった。5月に海外遠征をしてスピードのあるレースの感を取り戻す計画だったが、金銭的な理由により出来なかったので7月から早めに渡欧した。(具体的には以下参照。)故障以降、調整の時期ということもありトレーニングで無理はしなかった。7月初めの最終合宿ではロングの決勝を想定したトレーニングをする予定ではあったものの、腰に違和感を感じて半分でレースを打ち切った。

  1. 7月11日〜7月14日/デンマークでの自主トレーニングキャンプ
    デンマークのテラインに慣れ親しむことをメインにロブにメニューを組んでもらった。具体的には@マップウォーク(現地と対応させながら歩く)、Aコンパストレーニング(直進主体のコース)、Bロングレッグコースを行った。この期間では左のハムストリングスに張りを感じていたが、腰の痛みにまで進展することはなかった。
  2. 7月15日〜7月21日/オーリンゲン(スウェーデン)への参加
    外国人のいる中でのレース感覚を思い出す目的でオーリンゲンに参加した。スウェーデンの山は走りにくく負荷は高いがハムストリングスに痛みを感じることは少なかった。体調の良さを感じながら世界選手権への手ごたえを感じた。
  3. 7月22日〜7月27日/日本チームとのトレーニングキャンプ
    再びデンマークに戻り日本選手団とトレーニングキャンプを行った。メニューは短く少ないものであったが、ハムストリングスの張りを強く感じるようになった。ロング競技は長丁場であるため、積極的に攻めるよりもマイペースでスピードを出すという方法が良いように感じた。実際トレーニングキャンプ中のメニューでは良いパフォーマンスを発揮していたし、これで予選に望もうという意思を固めた。

5. 世界選手権のレースについて

世界選手権ではロング予選に出場したが、上記のテーマで望んでいたため全体としてメリハリのないパフォーマンスで終わった。レースは全体としてマイペースで進められたし、ミスは多くはないが少なくもないもっさりとしたレースだった。ラップ解析では20位台のラップを延々と刻んでいて、予選通過のスピードでなかったことがわかる。ここ数年スピードを出して走るというテーマで取り組んできたが、このレースでは出来なかった。ハムストリングスに違和感をかかえ、腰の鈍痛を持っていてはそのようなパフォーマンスしか選択肢がなかった。

6. 故障について

【過去5年間のトレーニングとその内容から】

5月末にぎっくり腰という形で故障を経験した。2003年11月にちょうけい靭帯の痛みから走るトレーニングが出来なくなる経験をしたことはあるが、腰痛で全く走れない経験は初めてだった。専門科によると、長年のトレーニングの疲労が蓄積したものだという。左のハムストリングスの硬直が腰の左部分に負荷を掛けていることは明らかだ。

【トレーニング時間について】

過去5年間のシーズン別(前年の8/15〜8/14まで)トレーニングの推移を見てみると、2004年の世界選手権への準備段階でトレーニング時間が500時間を越えた。長期海外遠征の経験から、自転車やマラニックをトレーニングに組み込みトレーニング量を上げた。2004年4月から福島県での勤務により、国内遠征で長時間ドライブを余儀なくされた時期であった。この頃から腰痛が起きていたので、長距離ドライブの後遺症もあるかもしれない。また、この頃からトレーニングの時間帯が早朝にシフトした。もともとはトレーニング時間を確保するためであったが、夜の暗い時間にトレーニングするよりは明るいうちにしたいという欲求から朝起きてから30分後にトレーニング開始というスケジュールが定着していた。朝動くと爽快に一日が始まるというメリットもあった。

筋肉は朝起きた時が一番硬い状態なので、早朝にトレーニングするなら軽いランニングか散歩が良いかもしれない。しかし、山道でのインターバルトレーニングやペース走などを取り入れていた。初めは走力がアップしている実感があったが、長時間のドライブともあいまってハムストリングスの疲れを感じ、思ったより走力が上がっている気がしなくなった。また、6月に足底筋膜炎を起こし走れない時期もあった。

2005年4月から埼玉に住居を移し世界選手権までのトレーニングを行ったが、ここでも早朝にトレーニングを行った。6月には昨年に引き続き足底筋膜に痛みを感じた。ハムストリングスや腰に毎日のように張りを感じた。世界選手権が終わった後も、トレーニングは継続して行っていたが、だるさを感じていた。冬はトレーニング量を上げ、登山などの低負荷トレーニングを行った。結局4月の体調不良・5月の故障でトレーニングの半分も消化し切れなかったが、1年で520時間のトレーニング量を確保した。これは、順調にこなせていたならば600時間弱のトレーニング量を確保している計算になる。

【トレーニングの質について】

トレーニングの質はそれぞれのトレーニング期においても変化するが、大体以下のようになっている。

  1. 最大持久力トレーニング(最大心拍数の90-100%)…全体の8%
  2. スピード持久力トレーニング(最大心拍数の75-89%)…全体の21%
  3. 基礎的持久力トレーニング(最大心拍数の74%以下)…全体の71%

比較的最大持久力トレーニングの割合が高いのが(2003年に調べた文献からだと、1〜5%で十分)特徴といえる。これによって体力レベルを引き上げてきたわけだが、「早朝に高負荷」というテーマにはやはり無理があったのかもしれない。時間がない分、心身ともに満足感を得やすい高負荷のトレーニングを続けてきたことが体に過度な負担を与えた可能性が高い。また、早朝にトレーニングを行ったあと十分にケアをして出勤というのは時間の面でも余裕を持てず、十分なケアを行えなかったという反省点もある。

【今後のトレーニングの方向性】

早朝のトレーニングを低負荷に設定する必要性がある。体を目覚めさせるといった方向性がよいかもしれない。また、鍛錬期でなければ疲れていたらやらないという選択肢も当然ある。次にトレーニングの時間を夕方から夜に設定しなおすということが必要だと思われる。仕事の都合上遅くなる時もあるだろうが、居住先もあわせ考えることは多そうだ。また、ぎっくり腰やハムストリングスの故障は、筋力不足や筋力のバランスの悪さから来ているものも多いらしい。自分の場合明らかに左足の筋力が不足している。走り方の癖や体のねじれを意識して改善していく必要性を感じる。

 また、長期的視野に立ってみると、来年1年はしっかりと体を作りつつリラックスして体の回復に努めることが必要だと思われる。筋肉は明らかに悲鳴を上げているし、トレーニングの後遺症か体のバランスもおかしくなってきている。大きな枠組みでみたときには、一種のオーバートレーニング状態になっているのかもしれない。オリエンテーリングを含めた人生をも考慮しなければならない年齢にも差し掛かった。

最終的な着地点を模索している毎日だが、「2年世界選手権を目指して1年休む」の繰り返しがベターと感じている。気持ちが萎えることもなくなるし、1年休みが入ることにより精神的にも余裕が生まれるからだ。その間、若い選手を育てる役回りに回ってもいいし、自分の人生を充実させる時間に使ってもいい。

こんなことを言ったら皆さんにどう思われるかどうかわからないが、自分はオリエンテーリング中毒だと思っている。だから、世界選手権で走りたいし、日本代表にもなりたい。でも、自分にとってオリエンテーリングは生活の手段ではないし、趣味の領域を出ていない。だからこそ、バカになって打ち込める存在なのだと思う。2年後、当たり前のように予選を通過し、世界のひのき舞台で活躍する姿を多くの人に見せたいと思う。