■スポーツにおけるエネルギー産出の方法
どんな運動であれ、私たちが体を動かすためには、エネルギーが必要です。た だし、そのエネルギーの生み出し方は、いつも同じではありません。体がエネル ギーを産出する方法は、2種類あります。簡単に言うと酸素を使う方法と、酸素 を使わない方法の2つです。私たちの体は、それを運動の内容によって使い分け ています。前者を「有酸素運動」、後者を「無酸素運動」と呼びます。ただし、 ほとんどのスポーツは有酸素運動と無酸素運動を混合した運動でオリエンテーリ ングもまた有酸素運動の割合が高いものの混合運動です。
有酸素運動では、酸素を使ってエネルギー産出するわけですが、運動の強度が 高まれば酸素だけでエネルギーをまかなうことができなくなります。普通に歩い たり、ゆっくりジョギングしたりするだけなら酸素だけで間に合いますが、全力 疾走に近い負荷になるとそうはいきません。人間が最高に取り込める酸素の量 (最大酸素摂取量といいます)の多いといわれているオリエンティアも最後のラス トスパートなどでは、無酸素で運動することになります。
■無酸素運動のエネルギー源
無酸素運動では酸素を使わずに、何を使ってエネルギーを産出するのでしょう か?それは筋肉の中にある筋グリコーゲンという物質です。これは、食べ物から 摂取した糖質が筋肉内に蓄えられたものです。糖質は有酸素運動の時も燃料とし て使われますが、余った分は筋グリコーゲンとして備蓄されるわけです。無酸素 運動では、その筋グリコーゲンが、化学反応によってエネルギーに替わります。 その時発生するのが乳酸です。乳酸は疲労物質です。体を酸化させる「サビ」の ようなもので、運動能力を低下させるのです。要するに、ほとんど乳酸の出ない 有酸素運動より、乳酸の出る無酸素運動のほうが「疲れる」ということです。例 を出すと100mのスプリンターは10秒間の無酸素運動で筋グリコーゲンを使 い果たしてしまいますが、マラソン選手は、ほとんどが有酸素運動だけで2時間 のレースを戦っていますから、乳酸があまりたまっていません。ですから、レー ス直後に呼吸を乱す様子もなく、何事もなかったような顔で話すことができるの です。
■ATポイントが高い人ほど体力がある
もちろん誰でも2時間のマラソンを有酸素運動だけでこなせるわけではありま せん。同じ強度の運動を、有酸素で行える人もいれば、無酸素で行う人もいるわ けです。そして、前者のほうが乳酸がたまらないので疲れにくいわけです。つま り、「体力がある」ということができるでしょう。
したがって、どの程度の強度で運動した時に乳酸が急激に増えるのかというこ とがわかれば、その人の体力を知る上でひとつの目安になります。別な言い方を すれば、どんどん運動の強度を上げていったときに有酸素運動が無酸素運動に切 り替わる「境界線」がどこにあるかを知ることで、体力のレベルがわかるという ことです。一般的に乳酸量が増え始める値のことを「無酸素性作業閾値」と呼び ます。やけに難しい言葉ですが、要するに「この強度を超えると無酸素運動が始 まりますよ」ということです。スポーツ医学の世界では「ATポイント」と呼ぶの が一般的です。
ここで、先ほどあげた最大酸素摂取量とATポイントとはとても深い関係があり ます。最大酸素摂取量が多ければ、より激しい運動を有酸素運動で行えるわけで すから、ATポイントも高くなる傾向にあるわけです。
■ATポイントが運動強度のポイント
さて、エネルギー産出の仕組みと運動の「種類」についてざっと話を進めてき ましたが、先ほど言ったようにオリエンテーリングは、有酸素運動と無酸素運動 の連続した混合運動です。よって、オリエンテーリングに必要な体力的要素を高 めるトレーニングには有酸素的運動と無酸素的運動をバランスよく組み合わせる 必要が生じます。
例えば、有酸素運動の能力を高めたいというトレーニングでランニングしてい ても、ATポイントを超えるような強度で走っていれば、無酸素運動で糖を消費 し、かつ乳酸という疲労物質も蓄積していることになります。逆にATポイントよ りも低い強度のトレーニングを数多く行っても、無酸素運動の能力を高めること はできません。
では、どうやって自分のATポイントを測ればいいのでしょうか?単純に考えれ ば、乳酸の量を測ればいいのです。ATポイントとは乳酸が急激に増えるポイント のことですから、その量を測りながら徐々に運動の強度を上げていけば、どの段 階で自分が無酸素運動を始めたかがわかります。トラックを使って練習するラン ナーの場合、1周あたりの時間(=分速)を測ることによって、自分の運動強度を 測ることができます。正確な距離が計ることができない、野山を使ったオリエン テーリングの練習の場合、この方法は役に立ちません。そこで脈拍を目安として 用いるのです。
■運動強度の目安は心拍数で計る
だれでも、簡単にATポイントの目安として計ることができるのが心拍数です。 運動の強度が高まれば心拍数も上がりますから、どれくらいの心拍数の時に自分 がATポイントを超えるかを知っていれば、トレーニングの強度を直接的にコント ロールすることが出来るわけです。
そのためには、まず自分の「最大心拍数」を知らなければなりません。その最 大心拍数が、ATポイントを割り出す時の基準になります。個人差はありますが、 運動習慣のあるひとで、最大心拍数の70%程度の心拍数と考えられるのです。
では、最大心拍数はどうやって知ればいいのでしょう。運動をして実測する方 法もありますが、ここでは簡易の計算式を紹介しておきましょう。計算式といっ ても、難しいものではなく「220−年齢」という、小学生でも計算できるもの で「予測最大心拍数」と呼ばれるものです。とりあえずの目安としては、有効な 数字だといえるでしょう。
この最大心拍数を基準にすると、例えば30歳で運動習慣のある人は、 (220−30)×70%=133回/分がATポイントになり、それ以上でトレー ニングすると無酸素運動、それ以下だと有酸素運動ということになります。
もちろん、基準になっている予測最大心拍数もアバウトなら、その7割がATポ イントという前提もアバウトなものですから、いちいちこの数字を厳密に守る必 要はありません。何度かその心拍数で運動してみて、おおよその強度を覚えてお けば、それ以降はおおむね効果的にトレーニングすることができるでしょう。
■オリエンテーリングのトレーニングに心拍計を活用する
オリエンテーリングの特徴は、先ほども言ったように有酸素運動と無酸素運動 の連続した混合運動です。しかも、その動きは整地された地面を効率よく走り抜 けることに重点が置かれるランナーよりも、より複雑で力強い動きが必要とされ ます。よって、北欧ではオリエンテーリングのトレーニングは、「様々なトレー ニングを組み合わせることがよい」とされています。この「様々なトレーニン グ」という言葉は、「様々なスポーツ」と言い換えることもできるでしょう。つ まり、オリエンテーリングにおいて(特にトレーニング期間において)身体運動 を伴い心拍数の増加が認められるものならば、すべての運動をトレーニングとみ なすことが可能なのです。例えば、サッカーを1時間行ったとします。従来のト レーニング概念だと、数キロ走ったというトレーニングにしかならないものが、 「ATポイント以上の強度で30分動いたとても高強度のトレーニングだった。」 となるわけです。つまり、「すべての運動」を「運動強度と時間」というものさ しで見ることができるわけです。これが、心拍数で運動を管理することの大きな 利点です。
■きちんと休養しなくては運動の効果は上がらない
いくら運動を習慣化することがよいといっても、365日間毎日ハードトレー ニングをしていたのでは、かえって運動の効果が上がりません。トレーニングの 効果は、休養をとって、体を回復させることによって、さらに高まるからです。 これをスポーツ医学の世界では「超回復」と読んでいます。
そこで問題になるのは、休みを入れるタイミングです。休んだ後は休む前より 運動の効果が上がるわけですから、効果が頭打ちになる直前に休みを入れるのが いいでしょう。このタイミングは年齢やその人の運動レベルによって変わってき ます。運動の効果を測定するのは大変手間がかかる難しい作業なので、一般の人 は、何日目に休みを入れるのが自分にとってベストなのか具体的に決めることは 容易ではありませんが、試行錯誤を続けていくうちに、自分に合った運動のペー スは自然にわかってくると思います。
ともあれ、大事なのは何らかの形でメリハリをつけることです。ずっと同じ調 子で体に刺激を与えていても運動の効果は上がりません。
刺激のある時期と刺激のない時期を交互に繰り返したほうが、運動レベルは アップします。どこを切っても変わらない平板なライフスタイルよりも「波」の あるライフスタイルのほうがいいのです。
その「波長」には、長短があってかまいません。1週間単位で「火曜日と金曜 日に波を高くしよう」という具合に波を作ることが大事です。また、1年単位で 「春と秋は高く、夏と冬は低く」と大きな波を作ってもいいでしょう。週単位で 「第2週と第4週は高くする」というような方法もあります。いずれにしろ、そ ういうリズムをつけたほうが、運動が習慣化しやすいし効果があるのです。
Polarの出している心拍計では、運動のデータをコンピュータに取り込めるタ イプのものもあります。私は現在そのソフトを利用してトレーニングをすべて管 理しています。学生時代につけていた形だけのトレーニング日誌より、能動的に トレーニング管理をすることができトレーニングをより効果的に行えています。
■心拍計をオリエンテーリング競技中に活用する
最近オリエンテーリング競技中に心拍計を装着している選手を見かけるように なりました。私もその選手の一人ですが、これはオリエンテーリング中の心拍数 を測定するためです。毎日のトレーニングで競技者は自分のATレベルと最大心拍 数を知ることができます。オリエンテーリング中には、そのATレベルをわずかに 超えるような強度で走ることが重要になってきます(もちろんこのATポイントは 個人によってばらつきがあります)。なぜならば、この心拍レベルがオリエン テーリングに適していることが、研究によって証明されているからです。
オリエンテーリング競技者がATレベル以上の強度を安定して発揮している時、 この競技者はより高度な運動能力を発揮しているといえるでしょう。心拍数が高 いままで安定し、競技の終盤部分で最大心拍数に接近しているならば、競技者 は、競技の最初から最後まで最大の運動能力を発揮すべく努力しており、競技で 好成績を収めるために必要な肉体的・精神的条件を満たしています。
また、競技全体を通じて、心拍数の変動が少なく安定しているならば、コント ロール通過時も速度を落とすことなくスムーズに通過し、速度を落とすようなミ スも少ないことを示しています。つまり優れた技術を身につけていると、考える ことができるわけです。
■リンク
- ・キャノントレーディングサービス(Polarの日本代理店)
- http://www.canon-trading.co.jp/
- ・Polar
- http://www.polar.fi/polar/entry.html
