●WOCへの準備
4月の末から長期海外遠征をすることが決まり、WOCに対する準備として以下のようなスケジュールを組み立てた。1)鍛錬期(4月末〜6月)
2)技術移行期[体と技術のキレをつくる](7月前半)
3)調整期(7月後半)
4)WOC(8月前半)
それぞれの期間における主な大会または主要な目標と内容は以下の通り。
1)鍛錬期
主な大会:NOC(北欧選手権)、SuuntGames、ForrsaFhoneGames、Jukola、 PaavoNurmi Marathon(ハーフマラソン)まずNOCに参加することによって4月時点の海外における自分の位置を確認した。その後はフィンランドのオリエンテーリングを体験するという名目のもとにオリエンテーリングを中心としたトレーニングを行った。
●1週間の典型的なトレーニングスケジュール
- 日(高強度):OL大会(60〜120分くらい)
- 月(低強度):軽めのJog、インターバルトレーニグ(60分くらい)
- 火(高強度):ILTARASTIT(60分くらい)
- 水(高強度):クラブでのOLトレーニング(50分)
- 木(高強度):ILTARASTIT(60分くらい)
- 金(低強度):軽めのJog、ウォーキング
- 土(高強度):OL大会(60〜120分くらい)
基本的にはこのスケジュールで行っていたが、持久力養成トレーニングが足りないと感じたときは、 ILTARASTITの後30分〜60分くらいJogを追加したり、ILTARASTITに自転車で出かけ自転車で帰ってくる (往復60分〜90分)などの補助的なトレーニングも追加していた。自転車トレーニングは単なる自転車による移動ではない。フィンランドの舗装道路はまっすぐな道が多くそのためアップダウンが厳しい。そのアップダウンを利用したインターバルトレーニングなのだ。登りだけ全力でペダルをこぎ(心拍数で80%まで上げる)、くだりは休む。それを繰り返すのである。またスピードが足りないと感じた時はインターバルトレーニングやファルトレックを週当たり1回(60分)行っていた。
オリエンテーリングの技術的なトレーニングは主としてILTARASTIT、一人で山に出かけて行うなどの方法を取ったが、レースのほうが高いモチベーションで行えるのでレースを優先した。
フィンランドにいる2ヶ月間で目標にした大会はSuuntGames、ForrsaFhoneGames、Jukolaであった。目標大会を絞ってそれに向けてオリエンテーリングをシャープにしていく過程を取ったほうがメリハリが出来ると考えたからである。しかし、SuuntGames,ForrsaFhoneGamesでは自分が思うようなオリエンテーリングが出来ず、フラストレーションがたまった。特にForrsaFhoneGamesでは体の重さが気になり最後はやっとやっとゴールするありさまであった。原因は調整の失敗である。練習量を落としたつもりではあったがなれない環境での1ヶ月の生活とトレーニングに疲れていることは間違いなかった。しかし、Jukolaではかなり満足したレースをすることが出来たが、国内のようなキレのあるレースというのは全く出来なかった。ほとんど毎日森に入りOLやトレーニングをしていたためOL用の筋肉が慢性的に疲労していたことは間違いない。6月末には体力的な目標を意図的に作るためTurkuのハーフマラソンにエントリーした。記録は80分と平凡であったが、体にはいい刺激が入ったし7月からのスピードトレーニングに対する明確な意思を持つには十分な結果であった。
2)移行期
この時期はJWOCのコーチングの時期と重なっていた。JWOCのトレキャンの時期はトレーニングの第3周期であったのでトレーニング時間を12時間程度確保しつつOLは随分高いスピードでこなさなければならなかった。疲れているにもかかわらず練習が高いレベルでこなせたのはジュニアの選手のおかげだと思う。JWOCの時期はコーチ業を平行してこなさなければならなかったため早朝5:30頃に起きてインターバル[3:30/レスト4:00×5本]や階段登り[アップ20m×20本または30本] などを行った。トレーニング時間としては多くはなかったが質が高く体のキレが少しずつ戻ってきたと感じることが出来た。
3)調整期
調整期は(i)インターラーケンでの自主トレキャン[18,19日]、(ii)デンマークとのトレキャン [21〜25日]、(iii)日本チームとのトレキャン[26〜2日]で構成した。(i)インターラーケンでの自主トレキャンは登坂力が低下しているのではないかという自己分析により登坂力強化のためのマラニックを行った。2日間でトータル2000mを登りこんだ。景色も素晴らしくストレスはほとんど感じることはなかった。また登りに対してけっして弱くはなっていないという自信も得ることが出来た。 (ii)のデンマークとのトレーニングキャンプは自分にとって最後の調整のつもりで望んだ。とにかく基本技術を如何に実直に行うかを目標にした。その結果スイスのテラインは基本技術をしっかりと行えば大きなミスをすることは決してなく、その分追い込んでレースすることも可能であるという手ごたえを感じることが出来た。 今回の遠征で自分はロング、ミドルの2つの種目を走ることが決定しており、全ての種目で決勝を走ることを望んでいるので(iii)日本チームとのトレキャンで疲れをためることは本戦においてマイナスであると考えた。国内の大会でも目標とする大会の1週間前にOLを高いレベルで何度もこなすことはまずない。他の代表選手、またトレーニングに来ている若者たちと高いレベル練習したい気持ちを抑え逆にその走りたい&OLをしたいという欲を溜め込もうとした。地図読み (ルートチョイス・プランニング)も毎日必ず行った。
(iii)日本チームとのトレキャン
- <7月26日>(WOC9日前)
- AM:レスト
- PM:前日(25日)が高強度のトレーニングであったため軽めのJogと短い距離のダッシュ10 本を行った。低強度。
- <7月27日>(WOC8日前)
- AM:デンマークチームとのトレキャンで入ることの出来なかったMiddleのテラインを走る。手続き的なものを優先させようとするが、走りに気を奪われる。高強度。
- PM:Middleのテラインでトレーニング。Middleは1日に予選と決勝があるのでそのスケジュールを意識して行う。午前中より動きはいいが岩の多い部分で大きなミス。やはりプランニングの重要性を感じる。高強度。
- <7月28日>(WOC7日前)
- AM:宿舎の周りの道でジョギング+インターバルトレーニング[3:30/レスト4:00×4本]。体はだいぶ動くようになってきた実感がある。高強度。
- <7月29日>(WOC6日前)
- AM:レスト。ハイジ博物館などに観光に行く。ハイジの家までハイキング2時間ぐらいのトレッキング。低強度。
- <7月30日>(WOC5日前)
- AM:Middleのテラインでの最終的なテストレース@。フラッグはなかったがその分集中してOLが行えた。高強度。
- PM:Middleの決勝を意識してのテストレースA。予選がかなり簡単だったためその勢いのまま走り出してしまい前半はさえないレース。しかし徐々に集中力を取り戻し全体としてはある程度まとまったレース。情報を必ず手に入れてから地形に入ることと正確な直進を徹底する。高強度。
- <7月31日>(WOC4日前)
- AM:ロングのモデルテラインで軽めのトレーニング(60分)。レースモードでないと色々な手続きをサボりがちになるので短く切って練習。低強度。
- PM:RichterswilにてスプリントOL。はじめは走るつもりではなかったが面白そうなので行う。ナビゲーションの緊張感を味わえた。体にもよい感じで刺激を入れることが出来た。高強度。
- <8月1日>(WOC3日前)
- AM:軽めのJog。ドリル的な動きを入れながら30分程度で終了。少しからだが重い気もするが気のせいと割り切る。低強度。
- <8月2日>(WOC2日前)
- AM:イベントセンターにて選手登録を終えた後、ロング決勝のモデルテラインへ行く。30分×2本のトレーニング。短く切ったほうが、その間集中できるのでとてもよいOLの調整になる。高強度。
- <8月3日>(WOC1日前)
- PM:Rapperswilから近い山へマラニック。50分程度のトレーニング。平均としての強度は低いが心肺機能にいい刺激が入れられた。
以上のように高強度+低強度の繰り返しになるようにメニューを組み。特に後半は疲れをためないことと OLへの欲求を高めるようにした。
■世界選手権までのトレーニング量の推移
4月はデータがないので空白。5月は肉体労働が1日あたり8時間から10時間あった。その練習時間を含めれば相当の時間になると思われる。
●WOC本戦
■クラシック予選
自分の走りがきちんとできれば、予選通過は当然の結果であるという気持ちと果たしてそれで足の速い外国の選手と競れるのかという二つの気持ちがあった。最終的には、きちんと調整できていて体の調子も悪くないという感覚とテストレースを通じて基本的な技術を正確に使えばミスをすることはまずないテラインであるという気持ちから、結局は自分のOLを実直に行うしかないという結論に達した。またそのほうがいいレースが出来ることも分っていた。
レース内容は、コントロール周りでミスが多く(20秒程度のミスを数個、数分のミスを2個)あまり良くはなかったが、これも含めて自分のつくってきたOLだと納得できる。欲を言えば周りに流されず、もっと自分をコントロールしたかった。やはり若いなと感じた.
今回のようなテライン・コースならばミスを無くせば余裕で予選は通過できる(まあ、ミスも含んでOL なのだから議論自体無意味なのだが)。ミスをしても、「大丈夫絶対に通る。」そういう気持ちで走れるかどうかは結果に大きく影響を及ぼす。その点では、今回常にポジティブで走れたことは評価に値する。
ロング予選のデータ
![]() 予選のスプリットチャート。オレンジが高橋。(小林達郎さん提供) |
![]() 予選の心拍数の変化。2つの大きなミスがわかる。 |
■ミドル予選
クラシックの結果から自分のOLをきちんと発揮すれば予選通過はほぼ確実であるという感覚を得ていた。クラシック予選終了後からオープニングセレモニー、スプリントと気持ちの高ぶる場面が多かったのでできるだけ自分の時間を確保し興奮レベルの調整に努めた。過度な興奮はパフォーマンスを低下させるためだ。 予選のレースはほぼ自分がやりたいOLができた。結果的には1つのミスで予選通過とならなかったわけだが、それも含めて自分のOLである。2001年のフィンランドでの世界選手権よりも確実にレベルアップしていると感じることができた。ただ、あのコースを21分で走る選手がいることは信じられない。トップ比は130%だが 2位の選手の120%なのでそこからもいいレースができていることがわかる。
ミドル予選のデータ
![]() 予選のスプリットチャート。オレンジが高橋。(小林達郎さん提供) |
![]() 予選の心拍数の変化。ほとんどミスがなく追い込めている。 |
■リレー
当初予定されていたテラインが嵐のため使用不可能になったため急遽使用したテラインは非常に簡単でスピードが出るテラインであった。日本チームの当初の目標は15位。この目標はクラシック予選の結果を踏まえたものであったが現実としては非常に厳しいものであった。自分のレースとしては前半に1箇所1分半程度のミスをしているがそれ以外はほぼパーフェクトのレースといってもいい出来だった。しかし、結果としてトップから10分程度はなされてしまった。やはりスピードが足りない。●雑感
今回のロングのような展開(持久戦、耐える勝負、山岳レース)には日本人選手は慣れている。反対に細かい地形の中をハイスピードで自己コントロールしなければならないミドルのような展開には慣れていない。それでも一時期よりは確実にベースアップしていると思う。それは女子選手の今回の活躍や自分自身の実感でもそうだ。理由は女子選手の意識の向上と常に男子選手と競れる環境だと感じた。男子選手において事態は楽観的ではない。もっともっとスピーディーなOLに慣れる必要がある。自分たちよりも速い選手が存在しない日本でのトレーニングではタイムを具体的な目標として走ることが有効ではないかと感じている。世界のトップ選手はほとんどのコースを5分15秒/Kmから5分45秒/Kmの平均速度で走る。このタイムはスカンジナビアだろうがコンチネンタルだろうがあまり変わらない(今回のロング予選のような急峻なテラインでは7分/Km)。このタイムから計算すると、我々は6分/Kmから6分30秒/Kmで走るトレーニングをする必要がある(急峻なテラインならばコースにもよるが8分半/Km)。合宿のメニューなどで目標タイムを設定し小さい集団(日本男子選手)の中での評価ではなく、常に世界のトップを意識した練習が必要だろう。
トレーニングの方法においても、持久的OLトレーニングと瞬発的OLトレーニングを意識して分けるべきであろう。特に瞬発的OLについてはマススタートのインターバルOLトレーニングは非常に有効だと感じる。勢子辻の100コンピを5つずつに区切って5本行うなど、はじめは短い距離を多く積み重ねる。一度そういうスピードでOLし、かつミスなく走る感覚を覚えてしまえば、レースの色々な局面でそのポテンシャルは生きてくる。リレーの場面などでも、「(リスクを背負って)積極的に攻める」という感覚ではなく「(リスクは感じず)一段上のギアで"OL" をする」という感覚を覚えることが出来るだろう。この感覚というのは非常に大切である(ニュアンス的に分りにくいが…)。大きな大会で結果を出さなければならない場合「走る」ことに意識を向けるということは「OLをする=コントロールを発見する」ということから気持ちを遠ざけることになる。やはりレースでは「OLをすること」が一番でなければならない。結局、意識せずにスピードが出るようなOLの状態をつくることが重要なのだ。フィンランドで行っていたFast Orienteeringは自分にとって非常に効果的なトレーニングであったと感じる。日本でも出来れば週に1回練習に取り込みたい。
持久的なトレーニングについては日本の環境は世界に誇れると思う。急峻な山は沢山あるし耐久レースもここのところ増加している。そもそも日本のOLは耐久的な面が強い。ミスをせず我慢して走れれば国内では勝つことが出来る。それが日本のOLなのだ。
日本におけるオリエンテーリングの年間スケジュールを見ると年がら年中シーズンのような感じにも取れるが世界選手権で結果を追求する場合期分けを確立する必要性も感じた。 鍛錬期で持久力を育成し、調和期でOLをシェイプし、競技期で結果を出す。そして、次のシーズンに向けて更に高いレベルでトレーニングを行う。そういう良い循環をつくることは2005年だけでなく、その先の世界選手権でも結果を追求する場合必要なプロセスだろう。ランニングのトレーニングでも、鍛錬期、調和期、競技期では内容が異なるはずだ。自分に一番合う方法を見つけ出さなければならない。ちなみに私の場合は鍛錬期はロングジョグ(マラニックなど) やサイクリング[低強度]の割合が多く、調和期、競技期は瞬発系のドリル・不整地/登坂インターバル[高強度]の割合が多くなる。週当たりのトレーニングでも高強度+低強度の繰り返しで体力の回復を図りながらOLをシェイプしていく。
また今回の世界選手権は前回(2001)の反省を踏まえ事前に走るコース(ロング、ミドル、リレー)が決められており、各自の責任で調整が行えた。このことは自分にとってトレーニングや調整を行ううえで非常に有効に働いた。直前の準備のところでも書いてあるが、1週間前は 6時間ほどしかトレーニングをしていない。それだけ万全な状態を作ってWOCに備えることができた。やはり体の調子はよかったし、気持ち的にもOLに対して貪欲なわくわくした新鮮な気持ちを持つことができた。今後の大会でもいわゆる「やりすぎ」に対しては細心の注意を払う必要があるだろう。
宮本さんがメディカルスタッフとして帯同していただいたことは非常に日本チームにとってプラスだったと感じる。それは、単にマッサージ要員としてだけのメリットではなくカルテを通して選手自身が自分の体調の客観的把握を行えたことと専門家からアドバイスを得られた事である。少しずつ、真に戦う集団に変化していると感じた。
今後日本のナショナルチームが世界選手権で結果を残していくためにはどうしたらいいのだろうか?私はもっと世界に出るべきだと感じる。世界選手権は確かに特別な大会であるがもっともっと厳しい世界が存在する。その世界に比べたら、いろいろな国が集まり、また国ごとに選手数が制限されている世界選手権のほう全体としてのレベルは低い。北欧に滞在しフィンランド国内の大きな大会やワールドランキングイベントに出場してそんな感想を持った。2年前に世界選手権に出場したときより、世界選手権が小さく感じられた。自分よりも速い外国人と競うことが日常となっていた毎日。その延長上に世界選手権はあったのだ。
そういう経験ができることが一番いい。しかしそれは金銭的にも精神的にも個人にかなりのプレッシャーを掛ける。人生までも左右してしまうかもしれない。やはり外国人コーチを雇うことが現実的だと感じる。雇うといっても在住してもらう必要はない。ポイントごとに日本に来てもらい仕上がり具合を確認してもらう、アドバイスをもらう、トレーニングメニューやスケジュールを組んでもらう、それを見てもらう、世界選手権の2週間前から日本チームに帯同してもらうなどあらゆることが想定できる。メリットは前にも述べたが、オリエンテーリングのスタンダードなトレーニング方法を具体的に教授してもらうだけでもだいぶ違うと思う。
あと2年。誰にでも等しく時間は流れる。2年後に自分の夢や目標を達成しているかどうかは目標へのプランとそのプランの毎日の実行だけが手段となりえることを忘れてはならない。




