2001世界選手権報告書
2001.8.14 高橋善徳
2001年の世界選手権日本チーム
2001年の世界選手権日本チーム

0.はじめに(報告書の概要について)

 この報告書は以下のように構成されている。
I.現状(5月時点)評価と課題/目標の設定
II.国内での準備
III.現地での準備
IV.世界選手権でのレースの評価
V.今後の課題
VI.雑感(提言)

 I〜Vまでは自分自身の今回の世界選手権への準備とその結果に対する考察である.今回の遠征では他の代表選手よりも10日ほど早く現地入りし自主トレをつみ、現地での大会に出場してきた.その準備の結果は思ったほど大きく出たのではないかと思う.他の選手よりも,フィンランドのテラインになれることが出来たし体力的な準備も去年のユニバよりは確実に余裕を持って準備できたのではないかと思う.これから海外でレースをする方の準備の一例として読んでいただきたい.

 VIは今回の遠征で感じた感想と,日本のOL界に対する提言である.今回ははじめて世界選手権に出場したこともあって,いろいろなことが見えた.日本で常識と思われていることそれが日本のオリエンテーリング界の発展を阻害しているものでもある.オリエンテーリングという「スポーツ」をもう一度見つめなおしそこからヒントをえていく必要がある.我々のトレーニングの本拠地はあくまでも日本であり「海外に滞在しないと速くなれない」では日本でのオリエンテーリングの価値が薄れていってしまう.もちろん海外に滞在することに対して否定はしない(むしろ海外に滞在したいくらい).そういう人たちが,オリエンテーリングのトレーニングの方法論なり,技術論を持ち込んでくれればよい.サッカーを考えてみると日本代表があれだけ強くなったのは決して代表チームに金をかけたからではない.サッカーの裾野を広げ,環境と人材育成に励んだ結果である.これからは日本チームとしての(代表という枠に縛られずに)強化(環境的なもの,方法論的なものの考察も含め)を考えていかなければならないだろう。

I.現状評価と課題/目標の設定

現状評価

技術的なこと

 ・コントロール周りや斜面での方向の維持ができないときがある。
 ・すばやくベストルートをチョイスできない。
 ・スピードコントロールに課題
 ・アタックのとき,細かい地形だと円の中に入って探そうとしてしまう。(細かい読図)
 ・体力がきれると適当なオリエンテーリングになる。

体力・スピード的なこと

 ・60分をいいペースで走れる体力はある。
 ・90〜120分を走れる体力はない。
 ・山の中でのスピードはまあまあある。
 ・アップが相対的に弱い(リズムよく登れるのでそのときに地図を読む)
 ・いわゆるスピードはない。

精神的なこと

 ・大きなレースになると興奮して思わぬミスをすることがある。
 ・上のことを意識すると,落ち着いてできることもある。
 ・ショートレースのジレンマからまだ抜けきれていない。

目標

 ・日本人のトップ105%以内で安定して走る。
 ・ショート/クラシックともにファイナルに出場する。
 ・リレーを走る。
日本人トップの105%で常に走れるようにするのは具体的な目標を定めるために設定した。このことによって,国内での合宿やレースに対する動機付けを行った。

課題と対応方法

フィジカル面

 1.100分しっかり走れる体力を作る:LSD(120分)を週1行う。
 2.どんな不整地でも走れる走りを身につける。:スピードトレーニングのとき以外はなるべく不正置を走る。(筑波山登りを週1で行う)
 3.スピードをつける。:スピードトレーニングを行う。(5000mのタイムを計る。目標16’40)

テクニカル面

 1.ルートチョイスですばやく読む力・ベストを選ぶ力をつける。:お絵かき,2000レッグプランニング。
 2.不整地や緩斜面での方向維持:合宿で意識して練習。
 3.コントロール周りの動き:コントロールと地図を用いて練習。

その他

 1.5月は練習量をふやす。(400キロ目標)
 2.6月中旬から暑くなるので徐々に練習量を減らす。
 3.7月はOL中心になるのでメリハリをつけて疲れを残さず質の高い練習をする。
 4.その日の疲れはその日のうちに取るつもりで栄養,休養,マッサージは必ず行う。
 5.メリハリのある練習をする。レストデイを必ず作る。
 6.地図読み走はするがだらだら見ない。
 7.去年のマップ,アナリシスの活用。
週1の割合で皆で集まって地図読みトレーニング(お絵かき)をする。

II.準備(国内)

以上のような目標・課題を設定したあと日本でフィジカル面,テクニカル面でのトレーニングを行った。

(1)トレーニングの内容

フィジカル面

 1.Jog(LSD含む):競技場の周りの土手,道路わきの草むら,公園などを走る。ペースはキロ4〜7分。20〜120分。
 2.筑波山登り:筑波山の登山道(片道2kmアップ600mを一気に登って降りてくる)。火曜日の早朝に行う。全体で約1時間のトレーニング。
 3.スピードトレーニング:ペース走[88”〜90”/400m],インターバルトレーニング[(3’20”)*5+(“70*5)],ビルドアップトレーニング[100”→80”/400m]
 4.筋トレ:腹筋,背筋,腕立てを週1,2回のペースで行う。

テクニカル面

 1.読図[お絵かき]:毎週金曜日に学生,藤城さんと行う。情報整理に効果あり。
 2.読図[ルートチョイス]:2000レッグを目標として,暇さえあれば行う。
 3.地図読み走:コントロールを実際に設置し,特にコントロール周りの動きを意識して行う。[アタック,パンチ,プラン,正置,脱出の流れ]
 4.合宿での直進の練習:フィンランドのやぶさを想定して,丁寧かつ確実な直進の練習。

去年フィンランドのテラインでトレーニングキャンプを張った経験から今回の世界選手権のテラインは技術的難易度が高くスピーディーなナビゲーションというよりは,どちらかというと確実なナビゲーションが有効であると感じられた。そのため,手続のルーチン化などによって動きの速さを追求する事より,いかに確実で速いルートを選択出来るか?そしてそれを確実に実行するために必要な技術についての精度を高めていくことがテクニカル面でのトレーニングの目標であった。

(2)基本的な1週間のトレーニング

月曜日:軽めのJog
火曜日:筑波山のぼり・LSD(90〜120)
水曜日:レスト
木曜日:スピード系のトレーニング
金曜日:読図練習[お絵かき]軽めのJog
土曜日:OL
日曜日:OL

(3)トレーニング量(2000.9-2001.6)[kmで表示1,2月はクロカンスキーが入っているためすこし多め]

2000.9から2001.6までのトレーニング
 Jog,スキーOL 筑波山 SPEED TOTAL
9月[269] 154.2 66 15 28.5 269.7
10月[328] 243.9 47.8 1029.9328.1
11月[300] 207 595 30300
12月[380] 240.7 100.1 1034.1380.3
1月[296] 241.3 478 0296.3
2月[338] 237.2 63.5 1028338.7
3月[301] 239 47.6 108301.5
4月[308] 206.4 54 20 28308.4
5月[338] 233.1 75.5 1020338.6
6月[277] 210.8 30 10 26.6277.4

(4)月ごとの所感(具体的に代表として準備した2ヶ月について,7月は次の章にて)

 《5月》:距離を踏みたかった。400キロを目標としたが340キロ程度しか走りこむことができなかった。スピードトレーニングの内容もペース走などが多く体の切れをつけるようなことは行わなかった。スタミナをつけるためLSDを多く行った。那須岳に登ったり,筑波山に登ったり(週1)して登坂力と持久力をつけた。月の終わりに左足のハムストリングに痛みを覚え,休養したので月の全体を通して走りこむことはできなかった。

 《6月》:スピードトレーニングに力を入れた。月277キロに対し26.6のスピードトレーニング(10%)を行った。5000mのタイムトライアルは 17分であった。けして速くはないが,自分が思っていたより遅くないという自信を得た。朝は地図読み走を行った。特にルートプラン練習。その中でCPごとに切ってイメージトレーニングを行った。プランニングを自分の中で言語化しいつでも行えるようにした。

(5)その期間の重要なレースの結果と評価

2000.10からの主要大会の結果
大会日 テライン コース 大会名 優勝タイム タイム 対トップ比 巡航速度 ミス率
10月8日 千本杉 7400/400 榛原(クラシック) 55:50:00 59:43:00 @106.9% 101 5.80%
10月29日 木葉下 11850/400 筑波大学大会 90:19:00 94:09:00 @104.2%
11月5日 松井田 9400/400 東日本大会 81:11:00 89:58:00 110% 102 10.80%
11月26日 平井 10800/790 公認多摩大会 75:55:00 81:07:00 @106.8% 106 3.30%
12月3日 大雄の鉄人 6800/350 関東IC個人戦併設 50:41:00 55:31:00 109.50% 102 8%
1月7日 雨乞池 7500 名古屋大大会 58:30:00 67:07:00 115% 103 11.60%
2月4日 日和田山 2800 WOC予備セレ(ショート) 26:00:00 31:26:00 119% 109 12.80%
2月18日 両総用水21 12000/270 早大OC大会 77:09:00 81:52:00 @106% 103 9.50%
3月25日 高森城址 10600/520 全日本選手権大会 77:50:00 81:25:00 @104.60% 104 7.70%
4月15日 根ノ上高原 4100/240 WOC選考会(1)予選 31:37:00 35:44:00 113% 103 11.40%
4月15日 根ノ上高原 3900/240 WOC選考会(1)決勝 39:16:00 54:48:00 139% 104 28.30%
4月30日 勢子辻(桐) 9400/360 WOC選考会(2) 65:50:00 69:03:00 @104.80% 101 6.30%
6月3日 赤城 10500/530 東大大会 69:53:00 80:19:00 114.90% 107 9.90%
7月1日 日光口盤裂 6800/250 東工大OLT杯 46:07:00 46:33:00 @100.90%
7月8日 AMIGASA   合宿レース(クラシック) 69:08:00 69:08:00 @100% 101 2.10%

<オリエンテーリングスタイルの変化>

WC,ユニバーを経て,追い込むことの重要性を感じた。追い込んだ中でどれだけ集中してやれるのか?それが秋の課題であった。東日本大会まではそのようなオリエンテーリングをしていた。しかし,ミス率が10%を越えることが多くなり,このままではいかんとスピードを抑え,ミス率を抑える走りをしようと考えた。それが公認多摩での走りである。しかしミス率は低いもののそれでも順位的にはぱっとせずその折衷案を探すようになった。つまりある程度のスピードを保ちながら(巡航速度103~104)ミス率を10%以下に抑えるというものだ。これはおおむねよい結果をもたらした。しかし,ショートレースではミス率が上がるという傾向が出てきた。これは競技時間とミスの時間との相対的な関係と連続するショートレッグにも問題があった(と思う)。そこで,コントロール回りの動きを重点的に練習した。東大大会は明らかに疲れによる体調不良であった。5月末にはムストリングが痛くなり思い切り走れなくなった。八ヶ岳でのクラシックはトップスタートいう事もありスピードを上げかつコンパスと歩測などを丁寧に使いながらOLすることが出来た。案外このレースにヒントがあるのかもしれない。

III.準備(フィンランド)

 昨年フィンランドのテラインでトレーニングキャンプを張ったけっか,現地での1週間のトレーニングだけでは結果を残すことはできないと判断した。約3週間前から現地入りし,自主トレーニングとFin5への参加を行った。フィンラインドでの生活を大体4つのタームに分け,それぞれに課題を設定した。

 1.Fin5前の5日間(7/11-7/15):フィンランドのテラインになれる。
 2.Fin5(7/16-7/20):レース勘を養う。
 3.トレキャンの期間(7/21-7/28):最終的な調整
 4.WMの期間(7/29-8/5):結果を出す期間。
  Jog OL Total 備考 所感
7月11日 2(16) 3(60) 5   
12 2(20) 2,3.1,2.2/4 14.8 筋トレ Jogはリラックスできる.
13 3.2(21) 3.6 6.7   
14 0 5.4,2.4,4.2 12.3   午前中はGood,午後はぼろぼろ
15 4.5 0 4.5 Hervantaで正置走 走るのは楽しい,スピトレ,移動日
16 2.3 4.1(37) 6.4 Fin5(1) ミスあり,相対的に良し
17 2.8 10.9(108) 13.7 Fin5(2) ミス大きい,キロ10は壁ではない
18 2.2 8.3(69) 10.5 Fin5(3) パークO観戦最高
19 0 0 0 レスト観光  
20 1 8(73) 9 Fin5(4) キロ8が良いレースの目安?
21 6.5(44) 0 6.5 レスト  
22   5,5.5(44) 10.5 NTと いい感じで走れる。鹿島田さんとほぼ同タイム
23   2.5,2.5,5 10 NTと イスタラスのレース,スピトレ並,疲れがたまり気味?
24 1 8(83) 9 レース形式 疲労困憊,オリエンテーリングも精彩なし
25 3.5(25)   3.5 レスト  
26 1 12.2 13.2 テストレース,午後スプリント練習 
27   5(50) 5 お絵描き 頭の中の整理
28 1.5 2.5 4 クラシックモデル,お絵描きいい感じ,お絵描きが効いている
29   2 2 クラシックモデルモデルで軽く走る,体調悪くない
30 2 9 11 クラシック少々体が重い。1つの大きいミス以外はまあまあ良い
31 0 0 0 レスト テレビ観戦,完全休養
8月1日 1.5 3.2 4.7 リレーモデルいい感じで走れた.つぼる気しない.体も軽い
2 2 5.6 7.6 リレー いいレースできた.世界は遠い
3 2 8 10 タンペレゲームズ  

期間@

今回の遠征の最大の配慮点は,疲れをためないことであった。フィンランドのテラインは見通しが悪く,常に方向と距離と特徴物への意識が必要であるため, ストレスがたまる。OLの練習をするときは,常に頭と体がフレッシュな状態であることを確認して行うようにした。期間@では,フィンランドのテラインに慣れることを目標とした。他のトレーニングパートナーが女性であったため,相対的な評価をすることができなかったが,自分でコースを組み実際にトレーニングテラインに入るという形を取った。そこでの課題はプランニングであった。次のCPへの方向と距離を明確に意識すること,それを正確な手続を行うことによってきちんと出現させることを目標とした。キロ9‐10分で走れる程度に仕上げることができたが,1つのレースで必ず1つは5分程度のミスをしていた。

期間A

 Fin5に出場することによって期間@で培った実力を試すこと。手続を実際のレースでも行うこと。レースに出場することによってレース勘を養うことを目標とした。目標は大体達成できた。レースとアナリシスを活用することによってプランの希薄なところ,特に距離が意識できてないときはミスが大きい事がわかり,歩測を積極的に活用することにした。また,のっぺりした特徴のあまりないアボガリオ地帯の処理が苦手なことがわかり、コンパスを厳密に活用することと,小さな地形や岩をひろいながら進むことでリロケートと修正を行った。Fin5の経験は,フィンランドのテラインへの苦手意識を取り除く上で非常に役に立った。いいレースをしてキロ8分,対トップ比130%前後であった。これはNTと合流する前での自分の中での指標となった。

期間B

 最終的な調整をする上で,他の日本人選手が思ったよりタンペレのテラインに対応できていることを知りとても感心した。また,自分が安定していいレースをできるようになっていることがわかった。トレキャンの前半は少し追い込んだ中で手続を正確にこなし現地と対応させることができた。意識したことは,なるべく遠くを見ること。遠くを見ることで現地と地図との対応がスムーズになり速く走れる。地元の大会などに出場しスピードトレーニング的な要素が取り込めたのもよかった。後半は疲労の蓄積からオリエンテーリングのリズムが崩れていった。疲労が蓄積するとまず走れなくなり,視野が狭くなる(足元を見るようになり遠くを見なくなる)。歩測が合わないから歩測もいいかげんになりショートする。走ることに一生懸命になり,地図を読まない,地形がイメージできなくてもなんとなく走りつづけてしまってミスを大きくする。こういったことがレース形式の練習,テストレースで起こり、自信を無くしていく。1: 15000の地図に対応できていなかった点もある。Fin5も含め,ほとんどのトレーニングを1:10,000の地図で行ってきたため,細かい地形が読みきれなくなっていた。特にこの期間はじっくりと過ごすべきだった。他の選手より多く山に入ってきたわけだし、休むときは休むべきであった。鹿島田さんとほぼ同じタイムで走れていることに機嫌をよくしていたことも事実。  テストレース以降は体をじっくり休めた。オリエンテーリングはしても1時間以内で抑え、かわりに1:15000の地図読みとお絵かきに多くの時間を割いた。お絵かきをすることによって自分が今どういう情報でオリエンテーリングをしているのかがわかった。地形と距離がイメージされていない事がわかり,イメージの中で何度も修正していった。少しずつ自分のイメージと実際のOLがかみ合うようになり,クラシックのモデルでは調子はほぼトレキャンの前半あたりに戻っていた。

(1)テストレースのアナリシス(7/26/2001の日記より転載)

高橋:66’35Top鹿島田:51’13

今日のレースはテストレースだった.自分としては気合を入れて臨んだレースだったし,ここでいいレースをしなければならないことは分かっていたのだが, 結果として最悪なレースをしてしまった.何が悪かったのだろうか?レース中は終始地図読みのタイミングの悪さと,次に何を目指しているかの不明確さに苛立ちを覚えていたがそれが分かりながらも修正できていないことは何か原因があるはずである.疲れている.それだけが原因ではないはずだ.幸い考える時間はあるし,クラシックの代表にも選ばれたのでここでしっかりと反省しておきたい. レース全体の総括今回のレースはプランの大切さを身にしみた.何回も言っている事でこういった結果を導いてしまったことは残念でしょうがない.しかし,これはWOCではなくテストレースだ.この時期にこういう経験を出来たことはむしろ良かったと考えるのが普通だろう.良いレースがずっと続くことも大事だが,最後まで自分の課題を発見して,それに集中することはそれ以上に大事だ.クラシックまであと4日、気をつけることは
(1) プランニング。特に「ラインを引くこと」。
(2) 直進の手続きを怠らず真っ直ぐ進むこと。
(3) 歩測をすること.
結局は基本的なことをキチンとこなすことが大事.例えそれが遅かろうが,レース全体で勝負するんだということを忘れないこと.

IV.世界選手権レース評価

(1) クラシック

ラインを引き,イメージ可能な距離のCPに集中する。次のCPまでの方向と距離を意識し遠くをみてオリエンテーリングすることを課題とした。少しからだが重かったが,緊張はあまりなくどんなことが起こってもあきらめず,必ず予選を通ると硬く決意した。3ポで5分のミスをしてしまう。しかし,そのあとは淡々と,しかも決勝進出をあきらめるわけでもなく自分のレースを行おうとした。下のグラフは予選のラップタイムのトップとの差の累積であるが3番以降はほぼ鹿島田さんと同じレースが出来ている。鹿島田さんはほぼ完璧なレースであったといっていたのであるが、それは以下のグラフでもわかるとおりほとんどミスがない。自分の目指していたレースが出来たことは今回評価できるがその目指していたレースが予選のコースでは大して意味をもっていなかったということだろう。特にヒート2は明らかに簡単なコースで中堅の国に取りこぼしがなかったことが予選通過を難しくした要因ではないだろうか?つぼらないことを前提とした上でどう速く走るか?そこまで詰めきれなかったことが敗因である。3番でのミスはルートチョイスのミスそして,現地の対応ミスであった。1,2番が軽快にこなせていたため少しの疑問に対して立ち止まることができなかった。予選通過ラインこそ遠いものに感じられたが日本チームにおける自分の位置,世界との差は十分に感じられたレースであった。

<5分のミス(クラシック3番)>
 日本でも北欧でも1レースで必ずといっていいほど5分程度のミスをする。なぜそのようなミスをしてしまうのか?いやミスを0にしろとは言わないまでもなぜそれを5分程度のミスにしてしまうのか?(1分に抑えられないのか)。これだと確信をもって言うことはできないが,ミスの入り口で気づくことができない場合があるということだろう。「なんとなく違和感」があるのだがそのまま進んでしまう。なんとなくあっている風に自己解釈してしまう。そしてイメージと全く違う風景が広がった時そのミスの重大さに気づくというパターンだ。ミスしやすい,似た地形に対して意識が向いているときはよいが,絶対に間違わないと思っている時はその意識がないからミスってしまう。結構「なんでこんなところで」って言うところが多い。

快調にいけているときも多い。スピードと情報の取り方に問題があるのかも知れない。何度も地図を見て確認せずに,方向と距離でバシッと行こうとしていると,その間の情報は読まない。ミスっていても,なんとなく行ってしまう。重要なレース(インカレ,選考レース,WOCのリレー)ではそのなんとなくの間が怖くてちょくちょく地図を見る。見ることによってスピードは落ちてしまうのだが,それでも安心して進めるからミスは少ない。結果まとまったそこそこのレースになる。

 いい意味での情報のカットというのは速く走るために絶対に必要だ。ただそのカットの仕方が下手なのか…。カットではなく簡略化すべきなのか?村越さんは 1レースで大きなミスをすることがほとんどない。(結構なスピードで走っているにもかかわらず。) このあたりは村越さんに話を聞いてみたい。

(2) リレー

このころは,地図を見てプランしても,行けない気がしなかった。これをこう見ていけば絶対にコントロールにたどり着く。そういう,なんだかわからない自信がみなぎっていた。リレーの前日に松澤さんと同時スタートで練習したが,ほとんどつぼることなくレース全体を走りきることができた。リレーのレースは, 途中自分の位置に自信が持てなくなり1分立ち止まったが,それ以外はほぼイメージ通りのレースができた。ミスることはあっても,リロケートによって大きなミスにしない。アタックで数mずれることはあっても,地形が読めているので修正が効く。そういうレースができた。おそらくミス率は感覚的に5〜6%位だと思う。理由は色々あるだろうがまず,コントロールでプランをやり切れたことが大きい。マクロなプランとミクロなプラン(主にアタック)が非常にうまく使えていていた。日本でやっているのと大してかわらない印象を受けた。19個もコントロールがあったなんて思えないほどあっという間に終わってしまった。

結果は,ほぼ同じコースを走った選手が35分。対トップ比127%。そこそこいいレースだったといえよう。しかし,その時点では3,4走の選手はトップが33分であったため対トップ比130%。ミスを引いても125%。ショートの予選通過の可能性を見出すことはできなかった。ウムスタートであったため, 1走と同じような状況を体感できたことは自分にとっては大きい収穫であった。決して遅い選手ばかりではない(トップ選手はいないがスロバキアなど中堅ぐらいの国はいた。) 中で,同じペースでOLができていたこと。ビジュアル後はそれらの選手がミスっていく中,2位でゴールできたことは非常に自信となった。

ショート予選を観戦した印象は,「あと一歩積み上げられなかった」というものだった。私達にとって簡単ではないそのコースをトップは23分で走りボーダーが25〜26分。トップ比120%をきらなければ決勝進出はできない。最悪のヒートであれば110%をきらなければならない。「フィンランドつぼり合いになる。」その予想はあっけなく崩された。 フィンランドでミスらず走りきることはできた。しかし,その上のレベルとして速く走るというところまでは積み上げることができなかった。だから,ある程度の難易度以下のコースならば圧倒されてしまう。そういう印象を受けた.

V.今後の課題

 技術的な問題について。ショート優勝者のパシ・イコネンが選手紹介のところでこんなことを書いていた。ジュニアとシニアの差は何か?それは体力ではない,技術だ。確実にコントロールにたどり着く技術もある。しかし,もっと他の技術もある。スピードを出す技術,スピードを落とす技術。ミスを最小にする技術。大舞台で確実に実力を出す技術。等など。そういうものを具体的に身につけていかなければならない。その技術をえるためには試行錯誤が必要か?体力がこれから飛躍的にアップするとは思えない。それならば今ある体力を生かす最大限のオリエンテーリングをする必要がある。(もちろん体力的なものの必要性を否定しているわけではない。) 5000mを14分で走ることはおそらくできないけれども,1000m(3分30)*10本はきっとできる。その体力でできる最高 (攻撃性を備えたしなやかな)のオリエンテーリングを身につける必要があるだろう。事実,村越さんは5月のタイムトライアルで5000m/17分を切っていない。村越さんがクラシックで予選を通過したことの意味は大きい。そこから私達が学ばなければならないこと。(思考法や技術)を考えていかなければならない。(もしかしたら真実はもっと簡潔でアグレッシブなものかもしれない)

 具体的に考えていることはスピードの中でオリエンテーリングを続けていくことの重要性。常にトップを狙っていく。はじめはミスる事もあるかもしれない。そのスピードの中でどのような&どうやって情報をピックアップしなければならないのか?そのタイミングは?視野を広く持つことの重要性。合宿でもできるはず,感覚的には「今日は90%のスピードでやってみよう。」という感じで。そういうトレーニングも必要。NTレベルだったら基本的な(つぼらない)技術はある程度確立されているはず。それを”全員で”やる(マススタートという意味ではなく)。中にはそれでうまくいける人もいるかもしれない。そういう選手はきっと試行錯誤でスピードをうまく活用できる技術的なものを身につけていけるはず。全員でやることが重要。

 あとは,メニューのバリエーションを増やすこと。簡単でスピードが出るコース。スピードが出せる部分と細かい部分が極端にわかりやすいコース。タフなコース。短いコース。縮尺の違うコース。パークOやスプリント。等など。

VI.雑感(提言)

今回の世界選手権のトレーニングキャンプは疲れた。それは私が体力的に弱いからだといわれればそうかもしれない。しかし,ある選手は下手をしたら,1年間の中で一番オリエンテーリングをする機会が世界選手権のトレーニングキャンプかもしれない。初めてのテラインで不安だからたくさん山に入る。当然疲れはたまる。しかしうまくいかないから,山に入らざるをえない。体が疲労してくれば当然オリエンテーリングも雑になりうまくいかなくなる。まさに悪循環である。私は幸運にもそういう状態になりかけで脱出することができたが,選手の中にはそういう人もいたはずだ。結局不安と疲労を抱えたまま本番を迎えてしまう。そこでいいレースができるはずもない。本当は直前ではなく事前に入っておくとかそういう対策は必要だった。ぜひ長期滞在可能者枠を設けてほしい。ただ,その選手選考は難しいかもしれないが,現地で少なくとも数週間トレーニング&レースができるマネージメント能力を備えていることが望ましい。その選手に現地での情報を送ってもらえることもできる。その選手が思ったほどの成果をあげられなかったならば本戦で使わないという選択肢も当然あるだろう。

 日本ではOLの指導ははっきりいって職人芸的な面が多い。体力的な指標やトレーニングも明確な基準はなく,個々に任されている。それはOLがたくさんの要素をもったゲームであることを示しているわけだが今後はもっと明確なハードルを設ける必要があると思う。そしてそのハードルをクリアしていく過程を身につけなければならないと思う。 わかりやすいところとしては選手のフィジカル面。フィジカルの強さが必要なことは国際大会に出たことのある選手なら誰でも知っていることだが,日本でやっている以上は特に女子に関してはあまり意識されないことの方が多い。NTレベルならば定期的に5000mやクロカン走のタイムをはかることも必要だろう。よく使われる指標が1000m*10本のインターバル(ビョルナーならば3分20秒だとか)。それを数%でもいいから,確実にアップさせていく必要はあるだろう。

 今回の遠征で気づいたことは各国におけるエースの存在とその選手の海外滞在である。オリエンティアの中では北欧に移り住み,北欧のクラブチームに籍を置いている選手はたくさんいる。そういう選手が国のエースとなり国を引っ張っているという点だ。リレーで上位入賞したチームには必ずそういう選手が何人かいる。日本のNTの中からそういう選手が出てくることは今のところないだろう。(「金は心配するな。いってこい」といわれれば行くが…。) そうなったら、活動の拠点を日本においてトレーニングするしかない。世界選手権が毎年開催になればWCにも毎年出場しなければならないだろうし,そうなったら日本が世界で結果を出していくことはまず無理だろう。(はじめていった選手がすぐ結果を出せるとは思えない。どうしても,経験のある選手が台頭していくしかない。そうなったら,さらに若い芽は育たない。) 

 日本におけるオリエンテーリングのトレーニングについてもう一度考えてみたい。海外でのOLのトレーニングに比べ日本では実際に山に入るトレーニングが圧倒的に不足している。海外の選手に聞くと誰しもが週3,4回山の中でOLをトレーニングとしてやっているという。やはり,OLが速くなるためにはOLをやるのが一番だと思う。先に日本人の海外滞在について書いたが日本と海外の決定的な差はここにあるのではないかと感じている。どんなに工夫しても,山の中に入るよりもベストなトレーニングは考えられない。すべては山に入ることが出来ないための代替行為だということをもっと意識すべきだろう。どんなスポーツでも(例えばクロカンスキーなどはどんなに走っても(体力的にアップしても)実際に滑るための技術が伴わなければ速く滑れない。) それは共通のはずである。日本では北欧と違い誰かが山を所有するという概念があり(地主がいるため)山に勝手に入るということやコントロールを設置して了承を得ずトレーニングすることはタブーであるため面倒がって山に入ろうとしない(もちろん時間的,距離的な制約もある)。この部分をどうにかして乗り越えないと日本を本拠地にするオリエンティアのレベルアップは図れないのではないだろうか?別にコントロールなんて設置しなくてもよいのだ。点状特徴物を目指せばオリエンテーリングはできる。先に選手の海外滞在について述べたが「海外に行かなければ速くなれない,世界を目指せない。」それでは日本のOL界の発展はありえない。日本にいながらにして,オリエンテーリング漬け(なるべくOLをする)になる環境を作り出しそれが日常になることが必要だと思う。たとえ毎日走っていたとしても週1回のOLだけで「私達は(エリート)オリエンティアである」と胸を張って言えるのだろうか? 毎日走っていたとしても週1回の試合で「私達は野球選手である」と言えるのだろうか? もっとスポーツとして根本的なことに目を向ける必要があるようだ。